WHAT IS CYCLE LIVING LAB.?

一般社団法人サイクル・リビングラボは、自転車の活用を軸に新たな産業・文化を築き、地域の活性化に取り組む団体です。

活動の軸となるのは多様なステークホルダーと協働する「リビングラボ」アプローチ。

行政、企業、生活者の継続的な関係性を構築し、自転車、モビリティ、テクノロジーを軸としたさまざまなプロジェクトによって先進的な事業に取り組み、新たな価値の形成を通じて都市や地域の持続可能な発展を目指します。

いよいよ仮コースを走る! 夕日ヶ浦/久美浜エリア試走記

2018年12月18日、私たち一般社団法人サイクル・リビングラボ(CLL)は、ワークショップから生まれた新たなサイクルルートのポテンシャルを探るべく、久美浜〜夕日ヶ浦温泉エリア(京丹後市内)の試走を行いました。地域にお住まいの事業者のみなさんと地域資源を掘り下げて設計した仮ルート、果たして現地を実走して見えてきたこととは?

ワークショップから生まれた3つのルート

2018年12月4日に地域のみなさんと行ったワークショップでは、さまざまな地域資源とサイクルルートの可能性が見えてきました。その結果を受けて、CLLでは、久美浜〜夕日ヶ浦温泉郷エリアを舞台に、3つの仮ルートを設計してみました。

■久美浜湾南部:田んぼルート

■久美浜湾一周ルート

■日本海ロングルート:上級者向け

 

今回の試走では、引き続き地域にお住まいの方々の参加・同行も予定されていました。自転車経験の有無に関わらず、有益な検証機会となるよう、さまざまな観点でのチェックポイント項目を事前に策定して本番に臨みました。

ルートごとに用意したチェックシートの例

 

道路の安全性の検討にあたっては、交通量や道幅、道路の見通しといった要素を並べました。自販機やトイレがルート上に点在しているのかも重要なポイントです。また、試走したあとの自由記入欄とともに、めいめいが感じたセールスポイントについての記入枠も設けました。

“金脈級”の埋もれた地域資源「田んぼルート」

通称「田んぼルート」試走中のひとコマ

 

2018年12月18日、午前9時30分。集合場所の久美浜公園駐車場には、前日お会いした五箇プロジェクトから岡村さんと関さん、道の駅「久美浜SANKAIKAN」さん、京都府広域振興局のみなさんがすでに集まっていました。ここにCLL3名が加わり、合計10名程度で3台のクルマに分乗して試走に臨みます。

 

なお、季節は自転車がオフシーズンとなる12月。京都北部ではすでに凍結や積雪の恐れもあるため、残念ですが車での試走となりました(現地にはCLLで1台持ち込んでいましたが、ほぼ利用できず、でした……)。

 

最初に走ったのは、久美浜湾南部をめぐる通称「田んぼルート」。

 

■田んぼ道快速コース

 

久美浜の市街地を抜けると、田んぼに囲まれた舗装路をひたすら南下していきます。おそらく農道なのでしょう、行き来するクルマはほとんどなく交通量や安全面でも非常に快適な1本道です。周囲に目を見やると少し先に山の稜線、360度開けた景観のなかに手入れされた田畑が続きます。近くを見ても遠くを望んでも、季節や時間帯によって表情の変化を楽しめそうなポテンシャルを感じられるエリアです。

 

同行する地域のみなさんによると、ルート上から望める(西側に位置する)山の稜線付近には、地元では知られた古墳があるとのこと。ただし現状では看板などの情報源は一切なく、このままでは確実に見過ごされてしまいます。このほか文化や歴史を感じられる遺産・資源も近隣に隠れているようなので、仮にルート化された暁には、来訪者にスポットの存在を伝える必要がありそうです。

 

その後、田畑を抜けると道路は狭くなり、山道に。ふもとの集落を抜けると、民家もなく草木に覆われた小規模な峠道になります(コースの南端)。ほぼ中間地点となる峠を越えると、今度は下り坂がスタート。傾斜は緩やかなので、集落・農村地帯へと吸い込まれていくような、自転車ならではの爽快な感覚を楽しめそうです。

 

こうして再び市街地へと戻ってくるという、およそ30kmほどの行程でした。バラエティに富む景観と、緩やかな傾斜を楽しめる間口の広いルートと言えそうです。途中、自動販売機はところどころに点在、また補給・休憩ができそうなスーパーや立ち寄り温泉など、サイクリストが喜ぶインフラは比較的整っている印象を持ちました。

 

印象的だったのは、同行した地元の方もほとんどがこのルートを認識していなかったこと。そして、試走を終えた全員が全体として良い印象を持っていたこと。まさにワークショップから生まれた「金脈」的なルート案と言えそうです。

久美浜湾の美景と文化・スイーツを楽しむルート

「田んぼルート」の試走を終えた私たちは、昼食を兼ねて久美浜エリアの観光名所「豪商稲葉本家」を訪れました。ここでは京丹後市の名物・バラ寿司やぼた餅をいただけるほか、江戸時代から回船問屋として栄華を極めた商家を自由に見学できます。明治時代中ごろには京都府の納税番付で最大の納付者として記録されているなど府下随一の資産家だった稲葉家。立派な屋敷と、地元ガイドのご紹介でいまなおその繁栄ぶりと暮らしぶりを直に感じ取れる施設です。

 

その後、2つ目となる「久美浜湾一周ルート」の試走がスタート。

 

■久美浜一周ルート(BLAND SCAPE EREA)

 

手はじめに、兜山を徒歩で登頂。久美浜湾にせり出した円錐形の山(191.7m)で、久美浜湾を一望できる展望台が設置されています。地元の観光パンフレットでもここからの眺望がしばしば表紙に採用されるなど、有名なビュースポットです。登山道は狭くクルマで登るのはおすすめできません。交通量は極端に少なく自転車での往来向きですが、参加者からは「坂道の勾配が険しいうえ、ところどころ悪路なので、現状では安全面に不安がありそう」という声も上がりました(そのぶん、展望台からの眺めは絶景で、登頂の達成感はひとしおなのですが……!)。

展望台から望む久美浜湾。試走当日は天気がぐずつきあいにくの曇天だった

 

兜山を下山した一行は、反時計回りで久美浜湾を一周。湾の北部・砂州を形成している小天橋エリアには温泉街があります。また、東部はうっそうと生い茂る緑のなかを駆けめぐる自然豊かなエリア。ゴルフ場や、湾内に養殖されたカキ漁場を横目に、スタート地点となる久美浜エリアへと円を描くルートです。全長18km弱とさほど距離がなく、展望台への登頂を避ければ勾配もほぼないため、気軽にサイクリングを体験できます。

 

また、起点近くの兜山周辺にはサイクリストが好むスイーツが多いのも特徴。酒蔵の「木下酒造」ではめずらしい「地酒ソフトクリーム」をいただけるほか、近隣の「ミルク工房そら」ではしぼりたてのジャージー牛乳でつくった特製の「牧場のソフトクリーム」を楽しめます。まったく風合いが異なるので、食べ比べしてみるのもおすすめです。さらに、沿道には京丹後市自慢のフルーツの直売所も多く、比較的短い行程ながら食の楽しみが豊富なルートと言えそうです。

リゾートと険しい峠道──ギャップが楽しめるハードコース

最終の「日本海ロングルート」は、久美浜湾から夕日ヶ浦温泉郷を越えて、網野地区を折り返して戻ってくる約45kmにおよぶロングコース案です。

 

■日本海ロングルート(海の景色とフルーツ:HARDコース)

 

久美浜湾東部の小天橋駅を起点に、フルーツの直売所群を抜けて、夕日ヶ浦温泉郷のある浜詰地区へ。楽夕会のメンバーのみなさんがサイクリングの拠点として名前を挙げていた立ち寄り温浴施設「外湯 花ゆうみ」もその一角にあります。すぐそばには夕日ヶ浦温泉郷が誇るビーチが拡がり、周囲の散策もしやすい立地。施設では、グラウンドゴルフや食事も楽しめます。

露天風呂などが楽しめる立ち寄り温浴施設「花ゆうみ」(提供:楽夕会)
露天風呂などが楽しめる立ち寄り温浴施設「花ゆうみ」(提供:楽夕会)

 

湯けむりとビーチが続く浜詰地区を抜けると一転、険しいアップダウンが続く海沿いの峠道へ。日本海の荒波を眼下に、ハードな傾斜とヘアピンカーブ(七竜峠など)が4〜5kmにわたって待ち受けています。サイクリングルートとしてはまさに上級者向けといえるでしょう。途中、山陰海岸の絶景を拝める「七竜峠展望台」、歴史上でその名が知られた静御前(源義経の妾)生誕の地に立つ「静神社」などの立ち寄りスポットがあります。

 

さらに、市街地エリアの網野地区を越えて東に進むと、「鳴き砂」でその名が知られる「琴引浜」があります。歩くと砂の摩擦により音が鳴ると言われており、不思議な体験を味わえます。

 

その後、ふたたび市街地の網野地区を経由。ここでは、名物の「バラ寿司」をはじめ食事処や補給・休憩のできるスーパーやコンビニなどが揃っています。そして、網野駅を抜けて、京都丹後鉄道と並走する国道178号線を走ると、ふたたび夕日ヶ浦温泉郷へ。さらに西へと走り、久美浜湾まで戻る、というルートです。

 

このルートは、とにかくアップダウンが激しく、市街地間がやや離れていることもあって、腕に自信のある経験豊富な上級サイクリストにしかおすすめしにくいところがあります。が、リゾート地である夕日ヶ浦温泉郷と険しい峠道である七竜峠付近とのギャップは激しく、エリアごとに異なる表情を楽しめるという点では、多様性に満ちたコースと言えるのかもしれません。

 

こうして得られた情報は、各コースの紹介の最後にある「Google My Maps」にまとめてあります。あくまでも、サイクリスト向けのサイクリング情報である点にご留意ください。

試走から、早くも次の展開へ

こうして地元の方々とめぐった3つのルートについて、めいめいの感想や気づきを記入していただきました。非常に有益な声も多かったのでいくつかご紹介します。

 

・全体的に道は整備されていてきれいな印象

・ルート全体を通じて、トイレや自動販売機は一定距離に設置されていた

・夕方を除けば、基本的に平日は交通量が少ない

・道幅が極端に狭く、クルマ同士がすれ違うと自転車のスペースがなくなるポイントがいくつかある

 

・山道では、ガードレールが必要なポイントが多々見受けられた

 

 

全体として、エリアに点在するコンテンツなど地域のポテンシャルには高い評価をつけている反面、サイクリストを積極的に誘致するうえでは、ルート上の安全面を中心に着手すべき点が浮かび上がってきました。

 

また、試走をしてみて得られた新たな着想としては、「アップダウン、平地メイン、短距離等さまざまなニーズに応じたコーディネートができそう」「田んぼや海沿いなどは映像として映えるので、ドローンと相性が良さそう」といった声がありました。

 

ご同行いただいたなかでは、試走により地域のポテンシャルを再発掘したり、自転車ユーザーの視点に触発されて、すでに新たな動きを模索しはじめている方もいます。その1つが、急遽試走にご参加いただくことになった「五箇プロジェクト」のみなさん。地域におけるインバウンド向けのサイクリングツアーに可能性を見出し、住民参加型でコンテンツを集めるためのワークショップを開催しています。

 

また、試走における発見として、五箇プロジェクトの岡村芳広さんは、広域にわたるサイクリング体験のトラブルサポートの必要性を指摘。サイクリストが増えるにつれて「自転車版のJAFのようなサービスが必要になるはず。その事業化の可能性を仲間たちと検討してみたい」とおっしゃっていました。

 

試走は、試走で終わることはありません。サイクリストの体験価値向上に向けて、それを実現するための取り組みは、はじまったばかりです。次の事業可能性を地域の方々をはじめ、同じ志を持った方々と進め、交流人口の増加や地域経済の活性化といった課題に向き合っていきます。今後の動きをどうぞお楽しみに。

 

こうした動きに関心のある地域の方々やサイクリストのみなさんはもちろん、丹後エリアを活かした事業活動に関心のある企業の方々も、ぜひぜひお問い合わせをお待ちしています。

 

(文責:白井 洸祐)